スペイン人礼賛

あれは3月下旬のこと。
スペインのカタルーニャ地方の地中海岸沿いは「コスタブラバCOSTA BRAVA」と呼ばれる。スペインには他にも美しい海岸で有名な「コスタ〜」がいくつかあるが、このコスタブラバも相当に美しい。それも日本人好み(私ごのみ?)の複雑に入り組んだ海岸線が続き、別荘や小さな入り江、松・・例えると松島海岸(行ったことありません)に沖縄の海の色を配色した感じのところが多い。
ジローナGIRONAの旧市街に部屋を借り、最後の1週間をのんびり過していたのだが、さすがにそろそろ海岸線や山の方に遠出がしたくなった。EMPURIESというあまり知られていないが素晴らしい遺跡、私の乏しい英語で説明を読む限りではギリシャ時代とローマ時代の遺跡が両方残っている、などを見学。周囲の海も丘もたいへん美しくため息がでます。長かったラテン系主要3カ国への出陣を終え、ここ30年欠かさず見てきた(はずの)地元の街の桜はまだ散らずに残っているかな〜などと余計なことなど考えながら小さな入り江などを回る。私のお気に入りはSA TUNAというたいへん小さな入り江だが、今回初めて行ってみたLESTARIT。真正面に美しい島が見える、海水浴場のよう。すっかり右側通行にも慣れ(ってこの話題には全然関係ないか)、道路からそのまま浜辺の駐車場に乗り入れる。
 と、ここまでは別になんでもなかったのだが・・。すっかり正面の美しい島の眺めに目を奪われていた(もう2ヶ月もすれば全く違うものに目を奪われていた可能性もありますが、それが何かは・・・)私はその前方に広がる波打際まで車で入れることに気が付いた(というより実際には無意識にそこまで乗り入れていたのだが)。後でよく考えれば、舗装道路から締まった砂で整備された駐車スペースと、単なる砂浜との違いは明瞭だったはずなのだが、少しでも近くで、いいアングルからこの美しい眺めを見る、それも車の中からそのまま見るのがいいな〜、ということしか頭になかったのだろう、その微妙に車1台やっと通れる境目を踏み越えていった。
 最初の35メートルはあまり違和感がなかった。
38メートルいったところで、ふと車輪のグリップに違和感を感じた。
 少しスピードを落としてみると、何だか微かに(本能的に)イヤーな雰囲気を感じた。
少しハンドルを切ってみて、これが夢なら早くさめて欲しいと願っていた。
 39メートル50センチの地点でついに前輪が「激しく」空回りし始めた。
「今は土曜日の夕方、ここは湘南海岸でも三浦海岸でもなくスペインだ。しかも季節外れの、雨上がりの海辺で人影もまばらだ。レンタカーを返し飛行機にのるまでには幸いまだ2日ある。英語はほとんど通じない。じゃ日本語が通じたり・・しない。ドイツ語では(あ〜う〜)くらい言えてもスペイン語では(あ〜)くらいしか言えない。でももしかしてカタラン語が話せるのかもしれな〜くない。」

(続く)

ここでいつもの問題です。それも本文の主題とはほとんど関係ない部分からの出題、という回答者泣かせ?(というより出題する価値があにという話もありますが)

1.文中で「もう2ヶ月もすれば全く違うものに目を奪われ ていた可能性もありますが、それが何かは・」とは何でし ょう。
2.本文中最後のほうの状況で筆者が知っていたのは何か。複数回答可。
 ①多摩地区からJAFに来てもらった場合の総費用と自己負担額の円額、ユーロ額。
 ②車の後部スペースに牽引用のロープ(ドイツ、スペイン、イタリア、フランス4国の道路交通法基準を満たすも の)が格納されていること。
 ③こういうときのために!ちゃんとデイバッグのなかにはMY ROPEが入っていること、及びその先見の明の  素晴らしさ。
 ④今日の夕食の献立。
 ⑤地元の大通りの桜がすでに3分咲きだったこと。
 ⑥年間3400人が、スペインの浜辺で立ち往生した車中で強盗に襲われ、うち28人が死亡していること。
3.ここまでの本文を読んであなたが思い浮かべなければならない四文字熟語、慣用句はどれか。(複数回答及び回 答拒否可)
 ①注意一秒事故一生
 ②虎穴に入らずんば虎子を得ず
 ③虎穴に入らずんば孤児になる
 ④油断大敵火事親父
 ⑤油断大敵
 ⑥郷に入っては郷に従え
 ⑦砂のうえにも2日
 ⑧呆然自失
 ⑨飲むなら乗るな、乗るなら飲むな
 ⑩在欲先達
4.この本文は結局そういう展開になるのでしょうか?


さて。。。
 さすがに最近この手の経験はないが、スタックした車輪は回すほど砂浜に深く沈んでいくのもわかり、自力脱出を諦める。とはいえ一応、非力ながらも一人で押してみたりするが動くはずもない。
こういうときに言葉がほとんど話せないのは辛い、が正直に言えばここで私が日本語並みにペラペラとカタラン語やらスペイン語を話せたとしたら・・・場合によっては大層な出費と時間をかけてJAFのようなサービスを利用することになった可能性もある。
 「誰にどう頼むか」それこそそれが私の最大の関心事となる。英語のできそうな人・・とも思うが良く考えると私の英語力では「現在の車の状況」を言葉だけで説明することさえ難しい。人と車はときどき見えるので、落ち着いてよーく考える、持ち時間は90分以上あるのだ。
 10分のうちにだいたい以下のような人や動物が目に入ったなかで、私が「満を持して」声をかけた人は果たして・・・。
①乗用車に乗った若いカップ
②年配のおじさん
③バンにのったお兄さん2人
④砂浜で遊んでいる女の子
⑤沖合いを飛んでいる鳥
⑥自分



 そう、これがすらすら解けるようならあなたはどこへ行っても大丈夫です。(?)
 迷わず沖の鳥たちではなく、バンに乗ったお兄さんに走り寄る。お腹を減らした野良犬が、人に擦り寄るときの気持ちは多分こんな感じなのだろう・・・。
 「@@@@@、@@@@、@@@@@@@」と話かけ、幸い「実物」が遠くに見えているので状況を理解してもらいやすい。スペイン語で多分「それならJAFに連絡して車を呼ばないとね〜」とか何とかおっしゃっているようにも聞えたが(そんな都合の悪いことは理解できないのが言葉のできない強み?で)「大変申し訳ないのですが、そこを何とか・・、車を見るだけでも何とか・・・おねがいします・・困っているんですよ〜ん」という思いを込めて「@@@、@@@@@、@@@@」。
 すると「それもそうだな〜」と相棒を見やると素早くダンボールのようなものを後部から取り出し、現場へ同行してくれた。そのまま「ちゅうちょなく」私の(一応借り物ですが)車の前輪下にもぐりこみ、砂を「ためらいもなく」素手で掘り出して・・・。(かなり感激している私)。で「じゃあエンジンかけてバックしてみて」というので(これは何語だったのでしょうね??)
 彼等2人が押してくれるタイミングにあわせてバックでアクセルを踏むが・・・。「ズルズルズル・・」というむなしい音とともに前輪は砂を吐き出すばかり。一人が交代して私も押し役になったがダメ。。。
「@@@、@@@@@?」
「@@@@、@@@」
「牽引のロープは積んでるの?」
「う〜ん、レンタカーだし見たこともないから多分無いですよ」彼らの服も手も砂まみれだ。やはりダメか・・・。あとは彼らにスペイン版JAFかレンタカー会社に電話してもらうところまで頼めるかな〜これだけしてもらって十分感謝してるけど。。。
 彼らもちょっとこれは手に負えないな〜と思い始めた頃。。。舗装道のほうから一台の車が向かってくる。
「@@@@@@@@@?」
「お〜いそんなとこで何やってんだよカルロス(仮名)、パブロ(仮名です)?」
「なになに、この日本人が車で砂浜に乗り入れちゃってさ〜手伝ってんだよミゲール(仮名。」
「お〜そうかどれどれちょっと見せてみな」さっそく彼も私の(借物の)車の下にもぐりこみ様子を見始める・・・。あ〜まだ何とかなるかもしれない・・・。(何とかよろしくお願いします、みなさ〜ん)
 とそこへ「プップ〜」とホーンを慣らしてもう一台車が・・。お〜これはあきらかにオフロードでもどこでもガンガン走れそうな車高の高い4WDだ。「@@@@、@@@@@?」
「お〜い、みんなそろって何やってんだよ、何だか楽しそうじゃないか、(俺も仲間に入れろよ〜)」とペドロ(仮名)がそのまま(頼もし〜い)(ほおずりしたくなるような)車で浜まで乗り入れてくる。
(私の期待度がここに来て急激にアップ)
「@@@@、@@@??」「へーいお兄さん、牽引のロープは積んでるだろう?」
「いや、その、あの、レンタカーなので、すいません、ぼそぼそぼそ・・」
「何言ってっかよくわかんないけどどれどれ見してみ〜」とペドロが手馴れた手つきでトランクルームのスペアタイヤのあたりを開けて調べてくれる。そしてすぐさま車体後部にもぐりこみ(ちゅちょなく!)牽引ロープを引っ掛ける金具を探っている。
「@@@@、@@@@@@」2分後にようやく見つかったらしく、すぐさま自分の車から(迷わず)牽引ロープを取り出してきた。「牽引ロープ」・・・○金井の運転免許センターでその言葉を習った以来縁もゆかりもなかった「牽引ロープ」。今まで軽んじててゴメンナサイ。
 そして2分後、動いた!バックで間違っても2度とずぶずぶ沈まない本当の駐車場まで引っ張ってもらい、全身に安堵感と脱力感が走る。カルロス、パブロ、ドミンゴ、ゴメス、ミランダ、セルジョ(あれなんだか名前が違うかな・・)みんなにひたすらムチャスグラシアスとか何とか思いつくかぎりの感謝の言葉をのべ、日本人得意のペコペコお辞儀を多発。
 「OK、OK今度は気をつけろよな〜」「どうせなら今度は魚でも釣らないとな〜ははは」「それじゃ気をつけてね」・・・。

 三々五々彼らが自分たちの車に戻り、去っていく。後になってせめて名前や連絡先でもきいておけば・・・と思いました。スペイン語だって辞書をひけば多少は書けるだろうに。そして一人砂浜に取り残されて(何だかそんな気分になりました)しみじみと思ったことは。逆の立場だったときにいったい私はあんなに「ちゅうちょなく」困った外国人を砂まみれになって助けて上げられるのだろうか、ということ。
「できません、今の私には」。これから少しでも彼等のあの行動を見習って、同じことができなくても今より少しは困った人をちゅうちょなく助けたり手伝ったりしてあげなくては・・・・という思いと、それにしても何てカタルニア人って(スペイン人って)(具体的には彼等は)素晴らしいのだろうと・・・。
そんなわけでこれを機に困ってる外国人を見かけたら助けてあげるようにしよう、と思いました。それもまずはスペインの人優先(?)でね〜。


 そこでスペイン人への恩返し・・。思い出しました。正確には「恩返し」したのではなく、なぜだか知らぬ間にささやかな「恩返し」をしていたようなのです。その例を2つほど・・・。

 話は今年の春に戻り(進み?)、「砂浜」のあるカタルニア地方でのお気に入りの街GIRONA。そうここに1週間滞在していた私は朝食・夕食は大体パスタを茹で(茹でたついでにそれを食べ)ワイン(もちろん?赤のリオハです)にチーズにサラダに生ハムなどで済ませ、(円所有者の悲しいところで)割安感のある(といってもグラスワインにコーヒーを頼んで2,500円也)ランチメニューを利用してお昼をレストランで取る、という基本パターンで過していた。
 この辺りでは料理のレベルはかなり高いのでどこでもはずれはない。3日目頃に入った、旧市街の目抜き通り(このあたりにアームストロングが住んでいたのですね〜)にあるレストランがなかなか良く、翌日も通う。一人だけ日本人ととても似ているウエイトレスさんがいて思わず16日間利用しなかったため忘れかけていた日本語の復習ができるかと思ったが、どうやら日本語のできない中国の人でした。しかし・・・この人がすごく似ているのです。そう誰だっけあの、最近はすっかり見ないが10年くらい前にはかなり有名だったあの・・あの・・・?う〜ん思い出せない。本人に言おうにも、周りの人に同意を得ようにも・・知るわけもないもどかしさ。その後一瞬帰国前にそのアイドルの名前を思い出したのですが、今もまた忘れてます。早稲田大学に入学したものの、あまり授業に出ず話題になったことだけしか記憶がないのですが、どなたかアイドルに詳しい方知ってたら教えてください。
 まあ昔のとはいえ、本当にそのアイドルにそっくりな彼女は当然ながら結構かわいい感じなので、2回目に来たアジア人の私に気付いてくれたようで悪い気はしない。で。え〜と「恩返し」でしたね、テーマは。
 赤のグラスワインにネグロパエジャもおいしくややご機嫌の私の隣に、年配のご夫妻が座っている。通常ヨーロッパでは他人の会話はほとんどバックグランドミュージック(たまに聞いたことのあるフレーズがあります)ののだが、何だか意味がわかるぞこの人達の会話・・おおENGLISHではないか。ということでややご機嫌な私は彼等に邪魔にならない程度に話しかけ、英国人ご夫妻とGENTLEな会話を少し楽しんだ。(つもり)食後のエスプレッソを飲んでいると隣ではご夫妻が「英語で」例の彼女にコーヒーを注文しているのだが、なぜか通じずお互いに困っているようだ。英語では「あ〜う〜ABCD」位なら話せる私から見ると、ネイティブなご夫妻と私の英語での注文を問題なくこなしてくれる彼女との間でコーヒーの注文に支障があることが不思議でならない。が、困ったような彼女(と、ご夫婦)を見るに見かねていた私に、ちょど彼女が(そういえば)というように私に少し困ったような笑顔で「すいませんが英語を話せますね?」と(多分英語で、ですよね)聞いてきた。「えぇ〜あまりうまくはないですが・・」。で要は私がご夫妻に希望を聞き、それを彼女にスペイン語で(というよりスペインではこんな感じで頼めばエスプレッソが出てくる、という単語などで)注文をしてあげると、「ああわかりました、ありがとうございます」とうれしそうに感謝されたのでした。もちろん英国人夫妻からも上品な言葉で感謝されて。聞いてみるとすでに(私同様)リタイヤしている彼らは南仏のツールーズに長く住んでいるらしいのだ。
 う〜ん、なぜ私が彼等と彼女の間で通じない注文を通じさせられるのか、というよりなぜ通じなかったのかが今ひとつ腑に落ちないのですが、「無事おいしいエスプレッソが飲め、午後のくつろいだひとときを過せるフランス在住イギリス人」と「注文の意味がわからず困惑の表情を浮かべていたスペイン在住中国人の彼女に、再び素敵な笑顔と安堵とを取り戻せたこと」。スペインカタルーニヤ地方での文化交流及び観光事業発展に貢献したのでした、たいへんささやかながら・・・。

 
 そんなジローナ(スペイン語の発音ではヘローナが近いらしいのですが、地元カタラン語ではジローナ、個人的にもヘローナではさえなさすぎなので)では夜遅くまでバルがにぎわっているので、歩いて1分でその辺りにいける私は自家製パスタやワインに生ハムなどで既に満腹、十分飲んでいても出かけなくてはなりません。3日ほど続けて通ったので、カウンターのお兄さんとお姉さん(昨年のウインブルドンで優勝したフランス人選手にそっくりで、本人か双子姉妹かもしれません)とも少し顔なじみになった私は若者や家族連れで混雑するカウンターでつまみとワインを注文。ほとんど周りは地元の人が多いようだが、さっき入ってきた4人位の家族連れの会話が何となく聞えてくるぞ〜ということは・・そう英語でした。イギリス人かと思ったら、パパはカナダの大学教授、息子はアイルランドで働いているらしくなぜか不似合いに(ここだから書けますね。読んでませんよね?読めませんよね、日本語??)美しい彼女を連れて・・。
 教授があなたは英語が話せますね?というので「えぇ(知人のO君やI君やS君ほどは全然話せませんが)少しなら(でも日本語はペラペラなんですよ)」と言うと、「じゃすまないが、ここの注文の仕方を教えてくれないかな?さっぱりわからないんだよ」というではないか。お〜っとこんあことがいつかもあったよな(前例参照)と思いつつ簡潔に教示さしあげました。「こういうところで立って飲むなら、つまみは指差してカウンター越しに注文、飲み物も同様。支払いは引き換えに払ってもいいけどみいなさん大体帰るときに自己申告、一応グラスや皿やつまようじの数で確認取り合っていますね」
 そうここでも私はカタルーニャ地方におけるカナダ人、アイルランド在住カナダ人、カタルーニャ在住バスク人の文化交流及び観光事業推進及び2007年度スペインGDP数値増加に大いに貢献したのでした。

(多分これで終了)