冬のベネチア

 マルコポーロ空港に降り立つのはじめて。ピアッツァローマは何度か利用しているが。
やはり霧というのか靄というのか、低くうすく水蒸気が立ち込めている。
バスで本島に移動することにするが、さすがイタリア・・・チケット売り場でも、それらしき列に並んでいる人も誰も正確なバス発着時間はわからないらしい、がたぶんここでしょうと(何となくお互いに)確認して待てばいいのだ。
 グランドキャナル経由のバポレット(水上バス)に乗り換え、駅?乗船所?で降りる。ああやはりここは来たことがある。英語で書かれた、まるで探偵小説に出てくるような指示文書通りに小さい橋を渡り、公園内を抜け右に折れキャナルは右手のリオを歩き2つめの橋を渡り、小さいカンポ(広場)を西南から入り北東に抜け・・・。鍵はちょっと古びてるけどきっと開くからね・・か。ふ〜確かに最後はやっと何とか開いたのだが。不思議なことに開くだろうかと恐る恐るやっているうちはすごく難しく思えたこの鍵も、2回3回と慣れてきて簡単に開くものと思えるようになると、実に簡単に開くわけです。
 曇り、曇り一時弱い太陽が顔を出す、曇り、曇り、朝方曇りから快晴・・・。それにしても何と美しいのだろうか。スキアボーニ河岸から眺める対岸のサンマジョーレ、右手に弧を描いて続くサンマルコの塔・・・。小さい橋を渡る毎に立ち止まり、眺め、ため息をつく。行きについたため息が、私の帰りを待つかのように同じ橋のたもとにずっとたたずんでいたかのよう。たくさんの細い路地、リオテッラ、ソトポテルゴ、賑やかなショッピング通り、橋・・。何気ない路地やちょっと入ったところにある、地元の人しかいないようなBARでスピリッツアペロールを飲む。太ったおじさんも、格好いいお兄さんも、さえないおじさんも、おしゃれなお姉さんも・・みんな生き生きと楽しそう。チャオ、チャオと声が飛び交い、頬を寄せ合う挨拶が交わされる。
 イタリア料理はおいしいといわれて久しい。が、少し違うのではないかと感じたこと。おいしいのは料理、ではなく素材・・。野菜、肉、チーズ、生ハム、パスタ、ワイン・・・どれも安くておいしい。観光地以外の何者でもない今のベネチア、レストランの評判は芳しくない。が、街中の高級店で買うゴルゴンゾーラドルチェも町外れのコープで買うゴルゴンゾーラも、正直言ってミシュラン2つ星レストランでサーブされるそれに全く遜色ない味だ。
 何度も街に通っているうちに何となく気になる感じの店、BARやレストランやジェラトリアがある。そして入ってみる。思ったとおりに、思った以上に心地いい内装やおいしい味、いい雰囲気でくつろげる店・・・。気がついてみると広いこの街の中に行きつけの店と広場と教会と、かならず立ち止まってしまうビューポイントと、ショーウィンドーに美しい色の服やマフラーがかざられた店・・・そういったものが点在し始める。そんなに多くなくていい。この路地からここを曲がると、そうそうこの小さい広場にでたっけ・・あれここはこないだの夜に向こう側から来たところだろうか、そうに違いない・・何年か前に来たときもそういえばやっぱりこの店にきたんだったな・・・、そんなことを思いながら、時々は地図やガイドを眺め路地を歩いていく。そろそろのどが渇いたな〜、レストランでワインじゃ重いからBARで軽く一杯飲もうか。