夏の花火

夏と花火・・。8月は各地で花火大会が行われる。
そんなかで、忘れられない花火大会が2つある。
 ひとつは栃木県のとある町に出かけたとき、偶然つけていたラジオ
で今日の夜花火大会があります、何々通りは交通規制のために・・。
こんな季節に花火大会か、何かいいね〜ちょっと時間を合わせて見て行こう。
日が暮れ、肌寒くなってくる頃。周囲はかえるの大合唱、向こうの川岸
にかけてあがる花火・・・。そんな季節を先取りしたような花火大会、
今年もあったのだろうか。
 もうひとつはちょうどお盆の頃、あれからもう何年経つのだろう。
当時夏のこの時期は4〜5日間かけて長野、岐阜、福井、京都、兵庫、石川
富山県。この7つの県の海岸線と山中を走るツーリングをしていた。
さすがに1回で全て、ではなく大体は京都・兵庫を加える年と石川、富山を
加える年とだったか。加えられるのは長野、岐阜、福井か。
あれは丹後半島の美しい海岸線を回った後だったろう、舞鶴か小浜まで走り
自転車をたたむ。日も暮れた北陸本線の、海側の席に座る。日焼けと走りで
ほてった脚を前に投げ出していた。もうあと15分くらいで敦賀に着くだろう、
ホテルの夕食は何時までだったか、先にシャワーをあびたいが・・などと
ぼんやり考えていた。パンパ〜ンと遠くのほうで何かはじけるよう音が、
開けた窓から聞こえてくる。と、ほぼ同時に遠くの海上に色鮮やかな光が輝く。
ああ、花火なんだ、お盆で今夜花火大会があるのか。
全く予想もしていなかったこの夜の、車窓から眺めた花火・・こんなに思い出
の残る花火はもうどこにもないだろう。

 さてこの日は神宮で花火大会がある日だった。が、人ごみと、じっとしていること
と蚊とが大の苦手な私にとっては、あまり興味のないものだった。
6時半ごろ会社のビルを出ると、浴衣姿の女の人が歩いている。ああそうか、今日だったな
・・はなびの日。
会社のビルから歩けない距離でもないし、今年の夏花火を見上げる機会は今日くらい
しかなさそうだ。いつまでも今のビルにいるわけじゃないし・・。
この時間にこのあたりを歩くのも久しぶりだな、と思いながら。見覚えのある細い路地、
はじめて踏み入れる通りを歩く。辺りには同じように、そういえば花火がそろそろ
始まるね、といった風情の人たちが歩いている。
原宿通りを抜けて少し広めの通りに出るとちょうどビルの間から、ちょっと前から音だけを
響かせていた花火が見える。立ち止まって、ちょっと位置を変えて、また立ち止まって。。
気が付くとあたりは人人人・・。それでもこんな何でもない路上で何となく見上げる花火、
ついでにビールを1杯飲みながら・・ちょっとだけ心地いい夏。
30分くらい見たろうか、最後まで見続けるのはやめて。これから見に来る
人たち、前方を見あがげている人たち、すれ違いながら山手線の最寄り駅まで。
今年、花火は見納め。
またいつかどこかで偶然に出会わない限り・・・。